P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

COLUMN

「ハラール認証マーク」から見る問題解決のデザイン

2025.03.06

皆さんは「タイ王国(以下、タイ)」を訪れたことがありますか?

トムヤムクンやパッタイなどのスパイス料理や寺院が有名で、年間平均気温はなんと29度、まるで「毎日が夏」のような温暖な国です。

先日、タイ旅行をしていた友人からお菓子や調味料のお土産をもらい、数年前の旅行を懐かしく思い出しました。「どうやって建てたの?」と思わず聞きたくなるような面白い形のビルや、路上で台車を引きながらフルーツを売る人々、市場から漂う美味しそうな匂い…。でも、やはり当時最も気になったのは、スーパーで目にした「商品パッケージ」でした。

今回はいただいたお土産を紹介しながら、タイならではのパッケージの特徴を深掘りしていきます。

「ミルクタブレット」

「これなんだと思う?」と笑みを浮かべながら渡されたこの白い袋。傾いたお釈迦様のイラストにネイビーの文字で商品名が書かれていて、中身は見当がつきません。ティーパックかドリップコーヒーかと思い、触れると硬くて丸い円盤のよう。開けてみると、昔懐かしいミルクケーキのような「ミルクタブレット」が出てきました。味はとてもおいしく大容量で魅力的ですが、外見と中身のギャップに驚きました。

「ひまわりの種」

こちらのパッケージは中身は想像がつきますが、モデルの全身をオモテ面に入れるという斬新さに惹かれました。(さらにはサインも書かれていました。)クラフト素材に彩度の高い色を入れると、くすみが弱くなり、柔らかい雰囲気を表現するクラフトでもしっかりと存在感が出せるのかと勉強になりました。

以上2つのパッケージを紹介しましたが、実は共通するポイントがあります。

それは「ハラール認証マーク(Halal Mark)」の記載です。

これはイスラム法(シャリーア)に基づいて製造された食品や製品に付けられる認証マークで、ハラールはアラビア語で「許されている」「合法的な」を意味します。イスラム教徒が消費しても問題ないことを示すものです。実際、いただいたお土産のほとんどに、誰が見ても分かりやすいサイズでハラール認証マークが記載されていました。

では、なぜこのようなイスラム教徒の生活に配慮した表示が多く見られるのでしょうか。日本貿易振興機構(JETRO)によると、2022年のタイ国民の全人口は約7170万人、そのうち95%以上は仏教徒、1.4%をイスラム教徒が占めていると言われています。一見少ないように感じるかもしれませんが、数で示すと約390万人。「18人に1人」がイスラム教徒であるこということを考えると、私たちが住む日本に比べて圧倒的に多いです。つまり、ハラール認証マークの記載がないと、それだけの人が食品を「気軽に口にできない」ということになります。こうした宗教的背景を作り手だけでなく、デザイナーも理解することが、積極的にハラール認証マークを記載することに繋がったのではないでしょうか。

話が少しそれますが、このハラール認証マークの重要性を改めて考えた時、佐藤卓さんの言葉を思い出しました。

「デザイナーとは『デザインのスキルを使って、物や事の本当の価値を人や人の暮らしへと繋ぐこと、物やクライアントと生活者の間に立って、伝えるべきことを適切に翻訳し、正しく伝わるようにお繋ぎすることです。』」

タイのパッケージデザインはハラール認証マークを通じてタイに住む「イスラム教徒」と「ハラール認証を受けた安心な商品」をつなげています。これはデザインが果たすほんの一例ではありますが、この「問題解決」こそ私がパッケージデザイナーを目指したきっかけだと言えます。

近年、アジア諸国に限らず世界各国でイスラム教徒の人口が増加しています。その数は20年後にはキリスト教徒を上回るのではないかとも言われています。つまり「ハラール認証マーク」を記載する商品が、日本のスーパーでも当たり前のように陳列される日は、そう遠くないということです。「問題解決」というパッケージデザインの役割を意識し、この商品がどの地域で、どのような人々に手に取られるのか、常に深く向き合っていきたいです。

出典:

amana iNSIGHTS「気付かれないデザインこそ、デザイン。佐藤卓さん(グラフィックデザイナー)」2017年11月16日(最終閲覧日2025年3月3日)

日本貿易振興機構(JETRO)「ASEAN主要国におけるハラール認証制度比較調査~マレーシア、インドネシア、シンガポール、タイにおける制度比較~」2024年3月15日(最終閲覧日2025年3月3日)

ニッポンドットコム『「知ることから始めよう」-偏見や差別をなくすために:日本人ムスリムの訴え」2024年6月13日(最終閲覧日2025年3月3日)

COLUMN

「包む」生命の本質

2025.02.04

私がパッケージデザインの道を選んだのは、先生が書いた一つの詩が大きなきっかけでした。

「包まれること」

地球に生きてる僕たちは
大気の中で包まれて生きている。
生命はすべて包まれた存在だ。
母親のお腹に宿った生命は
やさしく包まれて生まれてくる。

包むことは生命のすべてにおいて必要なこと。
パッケージデザインとは生命かな。
そして
外見も生きた表現にするコトが
大切なんだよ。

この詩は授業でパッケージデザインを紹介する時に見せてくれたものです。読む度に自分の専門に対する誇りと哲学的思考を与えてくれ、長い間自分のノートに残っていることで励みになっています。

パッケージは、単に物理的な保護や流通の便を提供するものだけではありません。「包む」ことが、生命の営みを象徴する行為であり、生物の進化や希望、生存を支える根源的な役割を果たしているということに、気づくことができました。まるで母親が子を包み込む愛情のように、パッケージが中にある価値を優しく保護しつつ、未来の希望をつないていく二つの視点を捉えていると思います。

そして、日本は「包む」ことが好きです。贈り物を包む、食べ物を包む、お金を包む、言葉を包むなど、日常に包む美学が溢れています。たとえば一枚の白い紙を使って折形礼法で贈り物に気持ちや自分の行動に形を与えています。そこには贈る相手を大切に思う気持ちや心そのものを守る想いなどが込められています。このような背景から「包む」という行為には精神的な豊かさが宿っていると思います​​。

一方でパッケージの役割は現代の消費社会の中で再定義されつつあります。環境問題が叫ばれる今、持続可能性を追求したデザインは「包む」そのものが生命を尊重する行為であることを再認識しました。素材や形状だけでなく、リサイクル可能な設計や廃棄後の未来まで考えることが今のパッケージデザインにとって不可欠になっているのです。

パッケージが物理的な役割を超えて、命の象徴として位置付けられることで、その存在がさらに深まっています。「包む」という行為が生命の保護、共有、そして次世代への希望を示しており、私たちの仕事が未来へつながる道を包むことでもあります。今日も、デザインに向き合うとき、先生が教えてくれた「包む」という行為の本質を思い出しました。それは、生命や文化、人々の心を結ぶ行為であり、私にとって生涯をかけるに値する挑戦だと感じています。

参照サイト
機関誌『水の文化』41号 和紙の表情
https://www.mizu.gr.jp/kikanshi/no41/07.html

P.K.G.Tokyo 朱 贇

COLUMN

「三方よし」から考える、現代ビジネスのブランディング

◉日本経済に大きな影響を与えた「三方よし」

大阪商人・伊勢商人と並び、日本三大商人として名高い近江商人は江戸時代、現在の滋賀県を拠点に天秤棒一本から財をなし「近江の千両天秤」と呼ばれるほど活躍していました。近江の商人たちは商いにおける独自の行動哲学を大切にしており、その考え方を後世に伝えるものとして「三方よし(さんぽうよし)」という言葉があります。

三方とは、企業に関わる「売り手」「買い手」「世間」の3つを表しており、
「売り手」である自社だけが儲かって喜んでいてはいけない。
「買い手」である顧客にも使われ、喜んでもらえるものでなければならない。
そして、一番重要なのは、自社と顧客だけでなく、「世間」も喜んでくれなければいけない。
この三者が喜ぶような商売をしないと、ビジネスは長続きせず、さらに繁栄し続けることは出来ないという事を示している言葉です。

「三方よし」は伊藤忠商事、住友財閥、高島屋など、日本を代表する企業の社是となっており、各社の功績からもこの指針が日本経済の発展に与えた影響の大きさが伺えます。また、創業100年以上の長寿企業ランキングにおいて、日本企業は約37,000社以上と米国の約21,000社を抑え、世界一を誇ります。(数値は2020年時点)
日本に長寿企業が多い理由として、江戸時代に各商店(企業)が導き出した経営手法を、近代まで代々継承し、持続させようとした試みが大きいとされています。継承していく象徴の表現として、暖簾や家紋というデザインが使用されました。
会社の存在する意義・姿勢を、社内外問わず、広く世間に対して示すこと。
自社独自の経営方法を築き上げ、時代に合わせて変化させながら、代々継承していくこと。
この考え方は現代の「ブランディング」に通ずるのではないでしょうか。
「三方よし」と現代の企業ブランディングとの関連性をもう少し掘り下げてみましょう。

 

 

◉「三方よし」をブランディング視点で考える

◎売り手よし
これは自社の上げる売上・収益の増加といった利益的な側面はもちろんのことですが、ここで注目したいのは従業者の満足度の高さについてです。
従業者それぞれが自分の行っている仕事に誇りを持てているのか、その労働に見合った満足な対価を得られているのか。対価とは金銭はもちろんのこと、対人関係や社内環境、仕事を通じて得られる達成感など心理的で把握しづらい価値も存在し、経営者は社内の人数によらず、それらの意識をコントロールすることが必要となります。
これらを叶えるために有効な手段として、インナーブランディングという考え方があります。
インナーブランディングは、従業者に対して企業の理念やビジョン、価値観を共有し理解を深め、共感や愛着心を持って行動してもらうための活動です。従業者が自社やブランドへ愛着を持つことは企業への満足度やモチベーションを高め、離職率の低下・ブランドのイメージアップ・優秀な人材の確保・生産性の向上などにつながります。

インナーブランディングの成功例として名高い、東京ディズニーリゾート。従業者はディズニー・ユニバーシティ・プログラムという研修を入社後も定期的に受けるのだが、その内容は業務のオペレーションやマニュアルに関することと合わせて、創設者であるウォルト・ディズニーが掲げた行動基準を徹底的にレクチャーされる。共通の価値観の伝達によって、従業者が目指すべき行動が共有され、一人ひとりが自発的にブランドを体現したパフォーマンスを行い、満足度の高い顧客体験を生み出す。

 

◎買い手よし
企業が生み出すものはもちろん顧客を満足させるものでなくてはなりません。その満足を生み出すために考えられるタッチポイントは、大きく2つ挙げられます。
まず、自社の提供する商品を通じたコミュニケーションです。商品ブランディングには、製品品質の高さ・ネーミング・コンセプト・パッケージデザイン・CM制作・web制作などなど、様々な要素から成り立っています。
もう一方で私が重要と考えるのが、従業者の対人パフォーマンスです。顧客がその商品を購入する際、売り手である従業者から受けるイメージや態度一つが会社への印象・イメージを作り上げていきます。
従業者の対人スキルをマネジメントすることは、顧客の満足度をより高める要因として機能するのではないでしょうか。

第3の場所を売ることをコンセプトに掲げているスターバックスコーヒー。職場・家庭とは異なるリラックスタイムをもたらす空間作りを運営するため、従業者は80時間の研修を受けることが必須となっている。しかし、その中には接客マニュアルは含まれておらず、具体的にどう行動するべきかを本人が考えなければならない。各人が職場で自分らしさを発揮できる風土が、他のチェーン系飲食店よりもスタッフ定着率や復職率が高い要因となっていると考えられる。

 

◎世間よし
ここで表されている世間とは、地域社会やコミュニティ、地球環境など、企業を取り巻く環境を表します。
社会や時代が求めているテーマは時代によって移ろいゆき、現在ではSDGs(持続可能な社会の実現)やESG(環境・社会・ガバナンス)などの社会課題が一般的に注目されていますが、会社の規模や指針に応じて、対応するテーマは異なリます。
環境問題のような大きな課題だけではなく、地域社会との関わり、身の回りの小さなコミュニティ1つ取っても重要なテーマとなり得ます。
自社が苦境に立たされているとき、手を取って応援してくれる人がどれだけいるのかが、その会社の普段の行い、社会貢献度の写し鏡ともいえるのではないでしょうか。
企業の長期存続・繁栄のためには、世間よしの視点は必須と考えます。

ペットボトルのリサイクル活動の啓蒙など、環境問題というテーマに重きをおいて様々な発信をしているSUNTORY。近年、商品宣伝だけではなく、ペットボトルのラベルを剥がすことの重要性を訴える企業広告をTV等にて放映している。CM内の「サントリーのじゃなくてもね」というセリフに企業の矜持としている姿勢を感じる。

参考
企業広告「#素晴らしい過去になろう ペットボトルでまた会おう」篇 60秒 サントリー
https://www.youtube.com/watch?v=rsQeKctTb-w

 

 

◉現代ビジネスと「三方よし」

今回注目した三方よしの考え方は、社会とのつながりを見据え、多くの人と手を取り共生しながら広く長く繁栄していくビジネススタイルの提案とも捉えられます。

多様性という考え方が広く一般化した現代ビジネス社会では、個人に対する選択肢や裁量度が大幅に増加しています。個にフォーカスした、より専門的で複雑なビジネス体系が社会の一翼を担っていく中で、経営の核となる姿勢を示した指針を立てることは、社会に対する存在意義を表し企業の強みとなるのではないでしょうか。
そしてその強みを社内外や世間へ伝達するために、デザインを利用することは強力な手法の一つです。
自社の存在意義を明確にすること・自社のブランディングを進めること・社内外に対してデザインを用いて伝達することは、それぞれが独立した要件ではなく全てがシームレスにつながって成り立っていると私は考えます。
そのため、一つの要件について考えるということは、他の要件のことも同じように考慮しどのように影響を及ぼしあっているのか慎重に検討することが必要です。

理論と表現、そして「利益や理屈だけでは表せない人情のようなもの」を少しのエッセンスとしてかけ合わせることで、様々な人に長く愛され繁栄していく組織の土台となり、それらを変化・持続させていくことは自社ブランドの独自性を高めることに繋がっていきます。
この考え方は組織に対してだけではなく、分野を問わず、個人個人の仕事に対する姿勢にも通ずる普遍性を秘めていると感じています。

 

P.K.G.Tokyo 稲田 拓真

COLUMN

アルゴリズムが奪うものとは 〜ブランディングはどう進化すべきか〜

2024.11.27

現代社会では、私たちの生活はアルゴリズムに大きな影響を受けています。日々のニュース、音楽のプレイリスト、ショッピングのおすすめに至るまで、個々の嗜好(しこう)に合わせた情報が提示されています。パーソナライズによって、かつてのように誰もが「好き」と思える共通の価値観は薄れ、個々人が独自の価値基準を持つようになりました。アルゴリズムは私たちが大量の情報の中から「好き」なものを効率よく選択するのを助けてくれます。その一方で、新しい価値観や予想し得ない出会いの機会を喪失させ、私たちの視野を少しずつ狭めているようにも感じます。消費者とのコミュニケーションの在り方が変容していく中で、ブランディングに求められることとは一体どのようなことなのでしょうか。

昨今、消費者の購買データや行動履歴から嗜好(しこう)を把握し、それに応じた商品や広告施策を作り出すことで顧客満足度を高めていくデータドリブンマーケティングが主流となっています。データの裏付けはリスクを回避し、投資判断を後押ししてくれますが、画一化したアプローチに陥りやすくなります。似たようなデータを基にした広告やキャンペーンが増えることで、市場全体が同じ方向に流れ、差別化が難しくなるのです。その結果、ブランドが持つ本来の個性や独自のメッセージを薄れさせ、短期的なニーズに応えるだけの消費される存在になりかねません。データを重視した合理的なマーケティングは、全てを説明しきり、ブランドについて「語る余地」や「考える余地」を失わせてしまう可能性をはらんでいると感じます。

とはいえ知らない商品やサービスを購入することはできません。データドリブンなマーケティング手法は認知を得るには有用です。しかし、ブランドが本当に長く愛される存在となるためには効率的なアプローチだけでは不十分です。ここで重要なのはスローな視点 ―すなわち、時間をかけて築き上げる信頼やストーリー、そして情緒的なつながりではないでしょうか。一時的な流行に乗って話題を呼んでもすぐに消えてしまうブランドが多い中で、歴史やカルチャーと強く結びつき愛されるブランドは、ブランド自体が一種の「カルチャー」や「アイデンティティ」として機能しています。

たとえば、アメリカ発のブルーボトルコーヒーは日本の喫茶店カルチャーからインスパイアを受けた「サードウェーブコーヒー」というムーブメントをけん引しながら日本へ上陸しました。 “おいしいコーヒー体験は、人生をより美しくする” という考えの基、コミュニティを大切にした独自のブランディングを展開しています。日本から撤退する海外ブランドが後を立たない中で、9年間で25店舗というスローペースで着実に店舗数を拡大しています。

データに頼る画一的なアプローチだけでは、消費者が本当に共感できる「ストーリー」や「体験」を生み出すことは難しくなりつつあります。時間をかけて培われた歴史やカルチャー、そしてブランドが掲げるアイデンティティを軸に、消費者と深い信頼関係を築くことがますます重要になるはずです。これからの時代に求められるのは、短期的な成果に固執するのではなく、長期的なブランド価値を持続的に高めていく視点なのではないでしょうか。ブランドは消費者に「選ばれる」存在ではなく、「共感され、長く愛される」存在であるべきなのかもしれません。

参考:Coffee in Nature|BLUE BOTTLE COFFEE https://store.bluebottlecoffee.jp/pages/coffee-in-nature

P.K.G.Tokyo 深津 貴史

COLUMN

SNSの「パケ買い」からみる大量生産品のパッケージデザイン

“パッケージデザインという分野においては、これを専門とするデザイナーがいるはずだが、歴史を振り返ってみても、グラフィックデザイナーとして多彩な仕事をしてきた者の多くはこれまで、大量生産品の「デザイン」を、むしろタブー視していたのではなかったか。それらはまともに議論するにあたわない、猥雑なものであると見放してきたのではないだろうか。ところが現実は異なる。私たちはどんなに著名なデザイナーが手がけたグラフィックやプロダクトよりもずっと身近に大量生産品を感じ、日々それらを使い、暮らしている。つまりデザイナーがそれら大量生産品から目を逸らすことは、暮らしそのものから目を逸らすことと同義とも言えよう。”

出典:佐藤 卓.「大量生産品のデザイン論 経済と文化を分けない思考」(2018.01).株式会社PHP研究所,P.12

 

「パケ買い」という言葉が大量生産品にも使われる姿を、SNSで見かけるようになりました。実際に企業側も「パケ買い」を意識したであろう打ち出し方をしている商品も見かけます。それほどまでにSNSが持つ効力が無視できないフェーズに突入しているということだと思います。

レコードやCD、書籍などの、ストーリーや情緒が重視される商品に使われる「ジャケ買い」は聞き慣れた言葉です。佐藤卓著の「大量生産品のデザイン論」引用にもみられるように、スーパーやコンビニに並ぶ大量生産品のパッケージデザインはいわゆる「デザイン」の成果物として認識されることが少なかった、あるいは今も少ないように思います。グラフィックとしての美的価値への探求よりも、商品の情報伝達が優先されることによって、デザイナーの作品としての掲示が少ないことも理由の一つです。パッケージデザインは、商品としての「中身」が存在し、それらを「梱包」するプロダクト的な役割と「情報伝達」するグラフィック的な役割を担っています。商品の中身とパッケージデザインが持つ情報がノイズなく伝わることにより「商品自身」がフォーカスされ「パッケージデザイン」自体へ意識が割かれないことも理由に挙がるかもしれません。

スマートフォンの普及とともに、SNSも急速に進化を遂げました。一個人が世界中に向けて情報を発信することが容易になったととも言えます。「パケ買い」という言葉とともにSNSに投稿される商品をみると、パッケージデザインとしての役割と責任の範囲がより広がったと感じます。

パッケージデザインには「美味しそう」、「便利そう」、「効きそう」、「面白そう」などなど、消費者の方に手に取っていただけるように様々な情報がメッセージとしてこめられています。「パケ買い」という言葉には、そんなあれこれを飛び越えてパッケージのビジュアルが気に入ったので購入したというフィーリングを感じます。SNSを通じて「パケ買い」のタグを投稿することは、購入いただいた消費者からさらに第三者へ己の持っている審美眼や、価値観を共有するような意味を持っているように思います。元々は装飾品などに求められていたような、より良い見た目への審美眼がじわじわと大量生産品にも降りてきているような感覚があります。

SNSへの投稿のための購買は、中身の本質と離れたところに価値を見出してしまう懸念があります。ただ、根本の思いは自分の「好き」を人と共有したいという想いではないかと私は思います。「好き」に選んでもらえることは、デザインを制作している側としてもとても喜ばしいことです。商品自身が持つ良さを情報として伝えるとともに、消費者の審美眼にも訴えかけられるデザインを両立したアウトプットで 「好き」を勝ち取っていけることが、商品にとっても消費者にとってもベストな道だといえます。

SNSで見栄えするパッケージが必ずしも店頭で映えるパッケージとはイコールではないのが難しいところです。コンビニやスーパー、ドラッグストアでは各社がそれぞれ販売戦略を持って、様々なアプローチで演出した商品が一同にずらっと並びます。トーン&マナーが統一された専門店と前述したようないわゆる大量生産品を比べると、商品パッケージの顔つきは大きく変わります。

「パケ買い」を意識したパッケージデザインを作り上げるには あくまで商品棚での苛烈な競争に打ち勝った上で、SNSでの情緒的な見た目の演出も兼ねなければなりません。SNSで目立つことが先行してしまい、肝心の商品を置いてきぼりにするようなデザインでは 一過性の売り上げは見込めたとしても長く愛される商品に育てていくのは難しいと思います。その匙加減の調整にプロとしての技量を問われていくことになるのだと思います。

私たちの仕事は、デザインを通じて一人でも多くの方に、一つでも多くの商品を選び取っていただくことです。一つ一つの商品が、企画開発や流通、品質管理などたくさんの工程と苦労をへて生まれます。最後の顔となるパッケージを託されることは、大きな責任が伴います。

SNSの台頭に限らず、デザインに求められることは 時代の移り変わりとともに変遷していく部分があると思います。新しい価値観へのアンテナを持ち続け、企業、商品、消費者に寄り添ったデザインを常に更新していきたいと思います。

 

P.K.G.Tokyo  白井 絢奈

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