P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

COLUMN

Where are you from?と聞いてみよう。

2018.01.22
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クライアントとの打ち合わせでは、いろいろなオーダーをいただくことがあります。「こんなイメージにして欲しい」であるとか、「女性(または男性)らしくして欲しい」であるとか。そういった条件を積み重ねて行くと、だんだんとクライアントのイメージする顔つきが浮かび上がってきます。そして、たくさんのオーダーの中、面白いのがパッケージの国籍。過去のオーダーではこんなものがありました。
「中国をはじめとしたアジア圏で販売するのだが、ヨーロッパ的な見た目にして欲しい。ただ日本製ということはアピールになるので積極的に取り入れて欲しい」。話に矛盾はありませんが、中国の人々から見たヨーロッパの魅力を日本人が考えるのはなかなかに難しい。それに、一括りにヨーロッパと言っても国も時代もいろいろあります。思案の結果、絵の具という商品であることを踏まえて、歴史を感じるアールヌーヴォー調の紋章のようなデザインに落ち着きました。

もっと意図的に国籍を演出したものもあります。


このコーヒーのパッケージの開け口にはアフリカンテキスタイルのパターンを盛り込みました。「本格派」な味わいを表現するために、世界の民族衣装の資料集とにらめっこをしながら作った、オリジナルの幾何学パターンです。日本にも一松や籠目に代表される幾何学模様はたくさんありますが、文化の違いや民族の違いはパターンひとつ取ってもこんなにも違う。それらを研究して形にして行く作業はとても楽しい時間でした。研究と表現こそ、グラフィックデザインという仕事の面白さだと思います。

このチョコレートクッキーのキャラクター性は「陽気なイタリア人」。派手なスーツも着こなしてしまう、おしゃべりだけどイイ男です。これはもちろんジャンドゥーヤというトリノ発祥のチョコレートを使っていることが一番の由来ですが、楽しくおしゃべりしながら家族や同僚とお土産を分けあって団らんする。そんなシチュエーションを想定したからでもあります。ロゴタイプやストライプで、まるでサーカスのように明るく楽しいイタリア人の国民性を表現したパッケージです。

これまでに挙げたものは国籍という観点でチョイスした一例ですが、パッケージには国籍だけでなくストーリーやキャラクターといった個性があります。誰がどんなシチュエーションで買うのかを掘り下げて行くと、そのターゲットの購買プロセスに沿ったその商品の個性が見えてくる。いつも日常的に見ているパッケージでも、そういう目線で見ると新しい発見があり非常に面白いです。「きっと、このデザイナーはこういうキャラクターにしたかったんだな」と、その人の思い入れや意図が見えてきます。今度、あなたが気になるパッケージを見つけたら、Where are you from?と聞いてみてください。きっといろんな国や性格のパッケージと友達になることができます。

http://yuyamadesign.com/

P.K.G.Tokyo ディレクター:柚山哲平

COLUMN

現代のデザイナーはフィニッシュも手がけるコンサルタント。

2018.01.21

◎デザイナーが商品開発に参加する意義

皆さんは「鑑賞教育」という言葉を聞いたことはあるでしょうか。もしかしたら初めて耳にする方も多いかもしれません。それは、図工や美術のように技術的なことを学んだり表現したりするのではなく、美術作品を「観る」行為を通して、観察力や洞察力、その作品を自分なりに論ずるなどのコミュニケーション能力を養うカリキュラムのことです。
私が初めてこの言葉を知ったのは美術出版エディケーショナル(当時は美術出版サービスセンター)さんの教材のお仕事でした。当時、「鑑賞教育」というものに特化した商品はほとんど存在せず、それらを実践していく学校の先生方も、どうやって授業をすればいいのか手探りの状態でした。生徒に美術作品を見せようにも、近くに美術館がある地域ばかりではなく、ニーズとして「鑑賞教育教材」が求められているにもかかわらず、それに応える商品がない。そうしたニーズを背景に、「鑑賞教育教材」の商品開発がスタートすることになったのです。

当初、私が受けた依頼を端的に言えば「教材用カードとその使用マニュアルをファイルのようなものに入れ書店等で販売したいので、その表紙をデザインしてほしい」というものでした。その時に感じたのはオーダーの難しさと商品のポテンシャル、そして担当の方々の開発に対する熱量でした。いただいたお話は限られた予算の中、せめてちゃんとした格好をさせて送り出してあげたいという親心のような気持ちから、何とか表紙だけでもデザインしてくれないかというお話だったと思います。

しかし逆に言えば表紙だけという制約は難しい。表紙だけ取り繕ったところで、そのポテンシャルを埋もれさせてしまう表面的なものになりやしないだろうかとも感じていました。見た目を美しく整えるスキルを期待されることは嬉しくもあるのですが、本来あるべきデザイナーの役割は「答えを可視化すること」だと私は考えています。
目的を共有して、霧を晴らし、ここがゴールですよとフラッグを立てるのが仕事。(厳密に言えばゴールではなくスタートポジションなのですが)「一度、こちらで考えさせていただけませんか?」。こういった経緯で「鑑賞教育教材」の商品化をテーマに、自分なりの回答を提案することとなります。

まず最初に着手するのはネーミングです。ブランディングにおいてネーミングは、最もはじめに決めなければいけない最も重要なこと。思案の結果「SCOPE」という名前に決めました。鑑賞教育のテーマは「観る」。ただ漫然と絵を見るのではなく顕微鏡や望遠鏡を覗き込むように、生徒が積極的にディテールを観察し、気づきを得て作品の意味を「観る」ためのスコープなのです。ちなみに、気づいた人もいるかもしれませんが、「SCOPE」のロゴタイプには「CとO」で表現した「覗き穴」を潜ませました。普通の名前が普通のロゴタイプにならないための表現上のアクセントであり、ちょっとした遊び心でもあります。名前とは不思議なもので、それが決まると「彼」のことをみんな名前で呼び出します。ネーミングとはコンセプトという中核を切り出す行為。名前をつけることで、漠としてふわふわしていたものが、急に目的を持った存在に変わるのです。

こうしてベクトルが定まれば、ここからようやく一般的に「デザイン」と呼んでいるフェーズです。このフェーズで最初に考えたのは「教材用カード(ポストカードサイズ)とその使用マニュアルをどう収納したものにするか」という課題でした。グラフィックではなく形状の課題です。当時私は、どうもファイル状になることに商品的な魅力を感じられませんでした。エンドユーザーである先生方が手にした時、何か良いものを買った時に感じる高揚感みたいなもの。ワクワクするとまではいかなくても、ちゃんとしたものを買ったという安心感。それがファイルには感じなかったからです。資料集のようなその見た目では、自分だったら本棚にしまいこんで忘れちゃうなと。
そこで私はDVDボックスのような所有感と存在感のあるパッケージにしようと考えました。スリーブボックスを棚に並べて、どうせならコンプリートしたいと思えるような統一感のある箱。もちろん「SCOPE」は教材なので学校の職員室にあってもおかしくない顔つきをしている必要がありますが、先生方も学校を出れば当然一消費者。お気に入り映画のDVDボックスを棚に飾る感覚で買ってもらいたいと考えました。ここまで決まれば、あとは紙工作の時間です。
収納されるもののサイズから逆算して箱の大きさとギミックを考え、サンプル箱の試作を繰り返しました。ちなみにサンプル段階と最終形状はほぼ同じ形で、提案段階から非常に合理的なボックスを提案することができました。

そして、この提案で最も重要だったのは「商品群」としての可能性を広げることでした。これはブランディングの醍醐味だと思うのですが、ブランドはロゴタイプ(ネーミング)を旗印に次々と商品展開をしていきます。もちろんそれはブランドとして確立されているからこそできることなのですが、「SCOPE」もある程度は最初の段階から群としてのボリュームが欲しいと感じていました。「SCOPE」は販売当初からポストカードエディションだけでなく、デジタルデータエディションがあり、実はこれもプレゼン段階から「SCOPE」を商品群化するために取り込んだものです。
このプロジェクトのお話をいただいた時にもうひとつの可能性を伺っていました。少し大人の方々は経験があるかもしれませんが、学生時代に「スライド」なるものを見たことがある方も多いのではないでしょうか。ポジフィルムをマウントに入れスクリーンに投影するアレです。プロジェクターのなかった時代は、みんなこれをカシャカシャと一枚ずつ映していました。個人的にはノスタルジックで好きですが、フィルムという媒体自体がなくなっていくことや保管の大変さから、現代の教育現場からは姿を消しました。伺ったお話は、美術作品が撮影された大量のスライドを編集して現代のメディアに対応できるようにデータ化。それを鑑賞教育教材にしていけないだろうかと考えている、というものでした。
そこで、私はその可能性を「SCOPE」に取り込み、一連の商品群としてパッケージ化することを提案しました。何となく同時平行で進行していた同じテーマの別の話。それが「SCOPE」を媒体にすることでひとつの大きな商品群として広がったのです。その商品群を一貫したトーンアンドマナーを持ったパッケージデザインとしてプレゼンテーション。霧の中、みんなが何となく探していた「答え」を、具現化できた瞬間でした。

細かなグラフィック上のこだわりやディテールの話は長くなるので割愛しますが、その後「SCOPE」は無事デビューに至ります。結果、ここまで商品然とした鑑賞教育教材がなかったこの分野で「SCOPE」はパイオニアとなりました。今では、担当の皆さんの営業努力の甲斐もあって順調に売り上げを伸ばし、看板商品のひとつとなっています。デジタルデータエディションも西洋や東洋といったカテゴリーごとにシリーズを重ね、商品として厚みのあるラインナップになりました。最終的には独自の鑑賞教育を実践できるボードゲームの開発もすることになります。(エウレカボックスの話はまた別の回で)

「SCOPE」の商品開発に川上から携われたことは、デザイナーとして非常に有意義でした。完成した商品だけを見れば、デザイナーの仕事は綺麗な箱のパッケージデザインをしただけに見えるのかもしれませんが、ネーミングや商品構成などの根幹を多くディレクションせていただき、目標の可視化をしました。また私の提案を受け入れていただいた美術出版エディケーショナルの皆さんにも感謝してやみません。デザイナーがパーツを作って納品する時代はもはや過去のもの。多面的な関わりこそがデザイナーに求められる意義なのだと感じる案件でした。

http://yuyamadesign.com/jp/project-scope.html?#project-0

P.K.G.Tokyo ディレクター:柚山哲平

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