P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

INTERVIEW

i3DESIGN × P.K.G.Tokyo 浸透するパーパスを作り上げ、運用していくには

「パーパス」という言葉をご存知でしょうか。企業の存在意義、社会に対する宣言を意味します。P.K.G.Tokyoは「世の中のあらゆる価値をデザインで更新し、世界のすみずみへ届ける。」というパーパスを掲げています。「design」の語源はラテン語の「designare」。「計画、設計を記号にして表す」という意味。現在の「デザイン」とは、ビジネスモデルをはじめとした、目には見えないものを計画、設計することも含まれると言えるのです。

そんな意味においてP.K.G.Tokyoは「パーパスを可視化する。ブランドをマネジメントする。」を掲げ、パーパスブランディング事業Identity Tokyoを展開しています。
「社会における存在意義」が問われる時代。Identity Tokyoは、志あるブランドのパートナーとして共にパーパスを導き、パーパスを核にブランドを可視化します。今回は、共にパーパスを作り上げたi3DESIGN のデザイン本部執行役員佐々木さん、現在運用に取り組まれているデザイン本部木下さんと、P.K.G.Tokyo代表天野の対談インタビューをお送りします。
取材・文:大島 有貴
撮影:唐 瑞鸿(plana inc.)

 

策定チームの発足。プロジェクトが動き出す。

天野:本日はよろしくお願いします。i3DESIGN とのお仕事を振り返ると、最初はロゴデザインのご相談をいただいたんですよね。「パーパスから一緒に考えませんか」と私たちからご提案をさせていただきました。

佐々木: そうですね。ちょうど、そのタイミングで弊社代表の芝が会社のフィロソフィーを文章にし始めていたんです。それを原案としてまずは、全社でワークショップを開催しました。当時は社員数20名程度だったので、ちょうどこのフロアで行いましたね。

天野:芝社長、佐々木さんを中心にパーパス策定プロジェクトチームを立ち上げてもらい、そこに弊社の中澤と私が入らせていただきました。ワークショップは2部制で行ったんです。パーパスは企業にだけではなく、個人にもある。その重なりが大きければ大きいほど、その人は企業とマッチしていると考えられています。まずは2人1組になり、会社における個人レベルでのパーパスを可視化してもらいました。その後の第二部では、4、5人のグループで先ほどの個人パーパスを共有しつつ、企業のパーパスについて考えてもらいました。最後に全体で発表し合い、他チームの考えを共有するという内容です。その時に出てきた言葉に傾向はありましたよね。皆さん、「人」や「成長」を意識されていたように思います。そこから、キーワードを抽出していきました。

佐々木:そうですね。そこから芝の言葉や弊社の社風を加味しながら、パーパス策定チームで言葉にまとめていったんです。AからCの3つの案を作りましたね。Aは会社と個人の「成長」が軸に、Bは事業内容が社会にどのような「作用」をもたらすか、Cは弊社の社会における「立場」を明確にしたものでした。そこで決まった初案が「デジタルとクリエイティブの力で世界の進化を支える」という言葉だったのです。

i3DESIGNのデザイン本部執行役員の佐々木さん(左)、デザイン本部の木下さん(右)。

パーパスから落とし込み、ロゴデザイン制作へ。

天野「i3DESIGN 」の「i」はidentity(アイデンティティ)です。そして、ロゴデザインを制作するにあたり、i3の「3」が何かを定義づけようという話が出てきます。そこにはパーパスの文脈が含まれているべきじゃないかと。そこで、策定チームでディスカッションを行い「ビジネス、デザイン、テクノロジー」の3つのアイデンティティに定義づけをしました。そこから、以前に出ていた言葉と合わせて「Business x Design x Technologyの力で世界の進化を支える」というパーパスができたのです。

天野:既存のロゴは、ちょっと細身でクラシカルな書体で、色は青系を使ってましたよね。ワークショップで出てきた言葉である「人」を意識しました。デジタルUI、UXをやっている会社らしい雰囲気を大切にしながら、人間味を残したんです。色に関しては、パーパスと同時に策定したValueの中にある「Stimulative」“刺激的なパートナーであれ”という言葉から赤を選びました。

人の温かみを感じる「ヒューマニスト・サンセリフ」をオリジナルで設計したロゴタイプ。

 

社内でパーパスを育ててきたからこそできる、Valueの再策定

佐々木:実は、現在Valueを新たに社内で作り直しているところなんです。きっかけとして、チームビルディングの一貫で、デザイン本部単位のビジョンとValueを決めたんですよ。デザイナーたちの行動規範というニュアンスですね。それを代表の芝が見ていて、会社のValueも自分たちで見直さないかという話が出たんです。

策定の方法としては、リーダー層や社歴の長い方20人ほどを集めて2回ワークショップを行いました。会社として3年後5年後のなりたい像を明確化し、そのために必要な組織構造は何なのかを考えました。1回目と2回目の間に、私と芝で話し合いも行いましたね。実は、ワークショップの設計と運営は木下に任せているんです。彼女は入社2年目ですが、個人としてよりも組織に対しての意識が高い。加えて、大学時代からワークショップの運営等をしてきた経験があるので指名しました。

木下:最初は緊張しすぎてガチガチでしたね(笑)。オンラインだと、皆さんの熱量が掴みづらいので、かしこまって司会進行をしていたら、皆さんが助けてくださって。全員で取り組んでいる雰囲気に救われましたね。具体的には、会社の未来を描くためには現在を知らないといけないので、現状の良いところと悪いところを書き出してもらいました。そこから未来について皆で考えていったんです。

浸透させることの難しさ、大切さ。

天野:i3DESIGNのすごいところは、一度決めたパーパスを噛み砕き、運用する中で必要であれば社内で調整できることなんですよね。普通は、そのリソースが取れない。弊社のサービスでは「トレーニング」と呼びまして、運用の部分も一緒にお手伝いしています。自主トレできる会社もあれば、トレーナーがいないとトレーニングできない会社もある。それは人員や規模によって変わってくるかと思います。小さな会社ですと社員数が少なく、リソースが取れないですよね。逆に、大企業においては、その大きさゆえに全社員にパーパスを浸透させることが難しいということもあるでしょう。そういったところを、我々はお手伝いすることができるんです。

佐々木:実際の肌感覚として、パーパスが浸透するのって、結構時間がかかるんじゃないかと思います。2年ぐらいは必要かと。私たちも徐々に理解するようになっている感じはあるんです。例えば、採用においては選考基準ができたかなと思っています。入社したけど合わないな、ここが合わせられないと難しいなど、カルチャーマッチの具合がはかれる。そういった定量化できないところが、言語で明確化されていると採用者が拠り所にできるんです。

木下:私が入社時にはもうパーパスが策定されていたのですが、就活の時にウェブサイトを見て印象的だったことは覚えています。私の就活の基準が、UXデザインを取り組んでいる会社かつ、ベンチャーが良かったんです。加えて、パーパスやバリューからのコーポレートサイトの一貫性は見ていました。例えば、デザイン大切だよねって言っている会社なのに、デザインがおかしいところは、ちょっと信用できないのかなと思いましたね。やはり、内側の部分を知るためにはまず、表層的な部分も一致していないと、知る機会さえ持ってもらえないということはあると思います。

天野:若手の方が育っていて、すばらしいですね。御社がパーパスやValueを会社のカルチャーとして定着させるために、取り組んでいることは何かあるのでしょうか。

佐々木:今回、自分たちで作ったValueに関しては、現場で口に出す人が多いような気がします。加えて、部内で毎週M V Pを発表をしているんです。特に賞金とかは出ないんですけど笑。選ぶ基準としては、Valueやミッションに基づいて決めています。今回、一緒に決めてくださったパーパス「Business x Design x Technologyの力で世界の進化を支える」。抽象的な言葉だからこそ、そこに文脈が生まれ、自分たちでValueの策定をした際に役に立ったと感じているんです。これからさらにもう一段、パーパスを浸透させていくためにさまざまなことに取り組んでいきたいと思っています。

天野:お役に立てて嬉しいです。これからも何かのタイミングで協業などできたらいいですね。今日はありがとうございました。

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P.K.G.Tokyoが取り組むパーパスブランディング、Identity Tokyoの詳細はこちら

NEWS

伊勢抹茶 / 伊勢茶 サンプリングパッケージ

昨年アゼルバイジャンにて製造販売開始された伊勢茶。
順調な滑り出しだったにも関わらずその後新型コロナウイルスが猛威を振るい、
海外向けのお茶需要が激減してしまいました。

そこで国内においても伊勢茶の魅力を伝えるべくHISの関連ホテルや店舗でサンプリングをすることとなり、P.K.G.Tokyoは昨年に引き続きパッケージデザインを担当しました。

ブランドロゴ、基本的なトーン&マナーは海外販売のデザインと統一しつつ、
外袋はオリジナルの紙袋を作成しホテル土産らしさのエッセンスを加えました。
外袋を開けると中に4種のお茶が入っている、限定30,000セットのアソートです。

見かけたらぜひ飲み比べを楽しんでみてくださいね。

P.K.G.Tokyo ディレクター:中澤亜衣

COLUMN

シンボルマークに見るアイデンティティ。

先日、2025年開催の大阪万博シンボルマークが発表されました。メディア上では「かわいい」や「怖い」といった賛否両論が繰り広げられているようですが、2020東京五輪のシンボルマーク以来、久しぶりの世論を巻き込んだデザイントピックとなっています。世間でデザインが語れる時、シンボルマークをはじめとしたマーク開発がよく引き合いに出されます。それはマーク開発というものが一般化し、デザインの一分野として確立されたものであるからだと感じています。では、シンボルマークやロゴマークとは一体なんのためにつくるものなのでしょうか。あまりに当たり前に世間にマークがありすぎて、もはや私たちはその意味を見失いがちです。今一度、その目的を検証してみましょう。

マークの歴史を遡れば、古今東西たくさんの事例が出てくると思います。例えを出せばきりがありませんが、日本で言えば家紋などが代表的でしょうし、西洋でも家柄ごとの古い紋章を研究した紋章学などの学問も存在します。さらに時を遡れば、古代から所有者を表すサインとしてマークが用いられていたり、判子なども自身であると認めるために、サインの代わりとしてマークを捺印することで古くから使われてきました。元来マークとは、歴史的に見ても「所有」「所属」「証明」など、個を特定するアイデンティティの表現を目的としていることがよくわかります。その中でも家紋や屋号は現代においても歴史あるアイコンとして使用されていますよね。老舗デパートや財閥系企業のロゴマークによく見られるものです。

話を現代に戻しますが、会社のロゴマークのことをCI(コーポレートアイデンティティ)と言います。先述のマークの役割で言えば「所属」を表すことが最も大きな意味合いとなりますが、CIはその役割だけにとどまりません。CIとは「会社のアイデンティティを見える形にしたもの」です。もし仮に所属の表現や区別を目的とするだけでいいのであれば、他のマークと違いさえすればなんでも良いので、管理番号のような数字の羅列で良いはずです。つまり、CIがCIたり得るためにはアイデンティティが表現されていなければならないのです。培ってきた歴史、組織の掲げる目的、守るべき信念といったイズムをマークにしてこそ、はじめて「アイデンティティ」と呼べるのではないでしょうか。この仕事に長く携わっていると「かっこいいマークを作ってください」というオーダーを時々耳にします。かっこいいかどうかは結果論でなければならないし、議論すべきはかっこよさではなく、何をパーパスとしているかです。かっこよさを真似ることはできますが、理念を真似ることはできません。アイデンティティを形にするからこそ、他と違うオリジナリティのあるデザインとなるのです。

歴史考証とともにアイデンティティという観点で1964年の東京五輪のシンボルマークを分析してみましょう。教科書にも載っている亀倉雄策氏のデザインです。終戦からおよそ20年。当時の東京オリンピックは日本が先進国として国際社会に復活したと、国内外にアピールするために非常に重要な国家プロジェクトでした。東日本大震災からおよそ10年経つ今日ですが、福島をはじめとする東北が完全な復興を遂げていないことを見れば、戦争で疲弊した当時の日本がどれほど急速に経済成長したかが伺えます。自信と誇りを取り戻すための通過儀礼がオリンピックだったのです。1964年の東京五輪のシンボルマークはその本質をとらえています。大きな赤い真円は、「日本」そのもの。当時の誰しもが失われかけた愛国心とアイデンティティをそのシンボルマークに感じたことでしょう。共感こそがデザインが持つ最も偉大な力です。ちなみに余談ですが、このオリンピックのシンボルマーク。「①シンボルマークを一貫して用いる。②五輪マークの5色を重点的に用いる。③書体を統一する。」といったルールによって運用されたそうです。現代の私たちが制作するCIマニュアルでも、シンボルマークのルール化とカラーマネージメントによるデザインシステムでブランドイメージをコントロールしています。私見ですが日本におけるブランディングの起源は1964年の東京五輪だったのではないかと感じました。かつてのオリンピックのシンボルマークを例に見ても、マークには大きな求心力が求められます。短絡的な思考で目新しさに惑わされるのでなく、皆が共感できるアイディンティティを形にすることこそ、デザイナーの為すべき重要な仕事なのではないでしょうか。

参考文献:東京オリンピック1964デザインプロジェクト

P.K.G.Tokyo ディレクター:柚山哲平

COLUMN

SDGsはデザイン経営のスタートライン。

昨今、電車や取引先でスーツの襟元にカラフルなSDGsのバッジをつけている方をよく見かけるようになりました。SDGsに対する取り組みがひとつのトレンドとなっている証拠です。もちろんサステナブルなわけですから、トレンドで終わってしまっては意味がなく、如何にして各企業がその取り組みを継続して行くかに注目しています。

2015年9月に国連で採択されたSDGs。その17のゴールはどれも社会にとって理想的な目標で、人々の生活や環境を守って行くための指針となっています。しかし、どうして経済活動一辺倒だった社会や企業が今、SDGsに熱心に取り組むのでしょうか。私はSDGsが企業を評価するひとつの基準となったからだと考えます。ものに溢れ、ものの価値が飽和した社会において、選ばれるためにはエンドユーザーが共感できる価値観が必要です。利己的な行為を繰り返す企業が支持を得られないのは当たり前ですが、逆を言えば理想的な社会づくりに一役買おうと一生懸命な企業を応援したいと思うのも人情です。しかし、それだけではこれまでの環境保護活動やエコロジー的思考と変わりありません。利己的な生産の贖罪として、莫大な利益の一部でまかなう曖昧な環境保護は常に懐疑的に見られてきました。それに比べてSDGsは目標を項目分けすることで、個々の企業がそれぞれ取り組んでいたことを分別し当てはめることができた。例えるなら、今まで「陸上競技」とされていたものを100m走、マラソン、高飛び、といった種目に分けたのです。それらのスポーツが同じ場所でルールなく行われていたとしても、我々は何を見ればいいのかわからなかった。SDGsは公に項目化することで、その企業が各ゴールに対しどれだけ真摯に向かい合っているかがが理解しやすく、さらには評価しやすくなったのです。それはSDGsが企業の評価基準になり得るということでもあります。
SDGsによる項目化は実施する企業側にもメリットがありました。2030年時点までに達成すべき目標が明確になることは、今取り組むべきテーマが具体的になったとも言えるからです。やるべきことがわかり、それが評価されるならばそれは企業にとってもチャンスです。「自らを生かすために、人のためになることをする」。SDGsを偽善的な理想論と捉えるのではなく、自らの経済活動の延長線上にあるゴールだと考える企業にこそ、リテラシーある社会からの評価が集まるのではないでしょうか。

企業がSDGsに取り組む際、17の中からセレクトするゴールとその実施内容は、経営理念によって定まると私は考えています。それはたとえ創業時と異なる事業となった企業であっても、脈々と受け継がれている理念は変わらずそこにあるからです。その事業を通じ、社会に貢献し利益を得る。理念と利益が対となっていなければ、企業は成立しません。創業時から培ってきたことだからこそ、SDGsへの取り組みと本来その企業が目指すべきゴールは重なるはずなのです。

少し話の切り口を変えましょう。2018年5月に経済産業省・特許庁は「デザイン経営」宣言をしました。
これまで、デザインは後付けで見た目を良くすることだと考える企業がほとんどで、経営とは縁遠いものだと認識されてきました。デザインという分野が専門性の高い分野で定義づけが曖昧であることがその認識に拍車をかけ、嗜好品のように考えられ「デザインは余裕のある企業が行うこと」ぐらいに軽んじられてきたように思います。
しかし「デザイン経営」では世界の有力企業がトップダウンでデザインに注力し、大きなブランド力を発揮していることを引き合いに、デザインが経営の大きなファクターであることを提言しています。

https://www.meti.go.jp/press/2018/05/20180523002/20180523002-1.pdf
※デザイン経営 – 経済産業省

SDGsを契機にデザイン経営のスタートラインに立つ。企業がSDGsに取り組むため、自社のルーツを見つめ直す時。その時こそデザイン経営にシフトするチャンスであると私は考えています。企業理念に基づきSDGsに取り組むなら、自分たちのことを社員にも他者にもわかるように説明できなければなりません。「なぜ私たちはそのテーマに取り組むのか」。デザインが持つ力は可視化による共感です。ルーツやヒストリーを可視化しステークホルダーと共有しましょう。パーパスを可視化し社会と共有しましょう。コーポレートアイデンティティを再定義しブラッシュアップしましょう。目指すべきゴールを見据え、理想の働き方やオフィスを可視化しましょう。それらはすべてデザインによって可視化されることで達成されるものです。社長直轄のデザイン戦略室を設置し経営戦略のベースにデザインを組み込み、内外に向けアイデンティティを再確認するのです。そして、商品やサービスにおいてもそれは言えること。価値を可視化しエンドユーザーに届けましょう。価値は相手に届かなければ無価値です。UI・UXであれ、プロダクトデザインやパッケージデザインであれ、人はデザインを通してコミニュケーションするのです。デザインを無視して価値を届けることはできません。「デザインは余裕のある企業が行うこと」という考えは、極論を言えば社会とコミニュケーションしないと宣言しているようなものです。ものを作れば売れる時代は終わりました。ステークホルダーが共感でき、ブランドをそこに見い出すためにはデザイン思考による経営が不可欠なのです。

P.K.G.Tokyo ディレクター:柚山哲平

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