P.K.G. MAGAZINE | パッケージを考える

INTERVIEW

東京土産ブランドをつくりたい。「GIANDINO」後編

2018.01.27

株式会社エーデルワイスが新たに立ち上げた
東京土産ブランド『GIANDINO』。
そのパッケージデザインを手がけたP.K.G.Tokyoが
パッケージデザインの開発経緯についてクライアントと語り合う。

GIANDINO 【前編】はこちら >

株式会社エーデルワイス
執行役員 商品本部 副本部長
地引 浩司氏

株式会社エーデルワイス
営業本部 新規開発室 課長
後藤 久輝氏

P.K.G.Tokyo
天野 和俊
柚山 哲平
中澤 亜衣

インタビュアー
神野 芳郎

デザインのキーワードはストライプだった

−ネーミングも決まって、いよいよデザインですね。

柚山:その頃には、商品自体もフィニッシュに近い状態で、クッキーの形に似た帽子をイメージに取り込んだ案や、キャラクター性を持たせるために、小鳥をモチーフにして、その小鳥がジャンドゥーヤの素材であるヘーゼルナッツを運んできているイメージの案もありました。

あのお土産物の激戦区の中で、どうやってパッケージとしてアピールするのか、私たちにとっても大きな課題でした。その一つのアイデアとしてキーワードになったのがストライプ。実際にパッケージを立体化して、いろんな案と並べてみたとき、「これだけ太い赤白のパッケージって目立つね」という話になり、それを品良く仕上げていこうと思いました。

中澤:デザインの段階から後藤さんも加わってくださいましたね。

天野:後藤さんは、売り場のことを本当に知っていらっしゃるので、どうやったら売れるかを常々考えていましたよね。

柚山:後藤さんに入っていただいたおかげで、ある意味リアルな声がパッケージに反映されたと思っています。デザインが派手すぎるのかどうか、その議論はよくしましたね。
まだまだ『GIANDINO』は、売り場の声をピックアップして、良い所を残しながら変えていく必要もあると思うんですよね。
それはもしかしたら、パッケージだけの話じゃなくて、味だったりもするかもしれないですが。

後藤:今のデザインでさえ私には派手すぎて「恥ずかしい」とか言いましたもんね…。

柚山:「ターゲットとなるサラリーマンがこの箱を持って恥ずかしいと感じるかどうか」、そこは、いろいろと議論した点ですね。

後藤:派手さというか、スーツを着てビジネスバッグを持ったお客様がどう感じるか。ずっとイメージをしています。

柚山:箱の大きさも議論になったんですよ。大きすぎると荷物になるじゃないですか。お土産という手前、やっぱりあんまり大きい荷物をお客さんに運ばせたくないのもあって、どのサイズがベストなんだろうって。
技術的にクッキーがつぶれないように個包装してセットにすると、このサイズになります。その大きさを目立つ面積が広くなったとポジティブに捉えて、楽しいものを買って帰ってきたという気分を感じてもらえるようにデザインしました。

天野:いただいてみませんか?

インタビュアー:わぁ!うれしいです!

後藤:『ナッティーショコラクッキー』がメインなので、こちらからぜひ。
インタビュアー:個包装もオシャレですね。程よい品を感じます。

柚山:実はエーデルワイスの深田さんのご意見が、大きなウエートを占めていて。今回の企画のリーダーである上に、デザインの細部にいたっても女性らしい繊細さを視点に意見してくださったので、本当にいいコラボレーションができたと思っています。

インタビュアー:ちょっと贈りものにできそうな感じがうれしいと思います。

天野:実は我が家で話していたんですが、冷蔵庫で冷やして食べたらおいしかった。口の中に入れると溶けておいしかったそうです。もしかしたら、そういう食べ方をお勧めするのもありなのかも。

後藤:本当ですね。それは実際にちょっと売り場でしましたね。販売当初は、本当に暑かったんで。

インタビュアー:お子さまが食べても、大人が食べてもちょうどいい。

後藤:そうですね。

インタビュアー:イタリアにはアベリティーボっていう、ちょっと食事の前に軽く一杯って食文化があるから、チョコレートでお酒を楽しんでもよさそう。

検証された最適なストライプ

−デザインの最終提案は、どれぐらいの数まで絞れたんですか?

柚山:最初は5案か6案ぐらいから、ストライプというところに絞られて。その後はどういうストライプが良いか検討しました。いろいろな表現のバリエーションを経て1案に絞られていきました。

その頃『ナッティーショコラクッキー』だけでなく、もう1タイプあった方がいいよねという話があって、『ナッティーブラウニー』には、どんな表現が良いか検討を始めました。

−特徴的な太さと、うまく調和が取れたストライプだと思います。このストライプの太さというのは、ずいぶん差があったんでしょうか?

柚山:かなりの数の検証を繰り返して、この大きさに決めました。箱の大きさは3タイプあるんですが、実はその大きさに関わらず、個包装など全て同じストライプの幅になっているんです。それは棚に積んだときに、統一感と一体感をつくりだすためです。なので、太すぎてもいけないし、細すぎてもいけない。その視点で適切なストライプの太さを探しましたね。青いストライプの案やもっと細かいストライプの案もあったんですが、最終的にはこの紅白に落ち着きました。

天野:どの大きさの箱が一番売れますか?

後藤:やっぱり小さい箱が売れますね。お土産と自分用でしょう。

柚山:地引さんたちは、何を決め手にこのデザインを選ばれたんですか?

地引:普段百貨店で販売しているギフトって、売場で平積みして置いておくことがないんですよね。ショーケースに蓋の開いた状態で斜めになって、イメージを作って、選んでいただくというのが基本なんです。

百貨店のようにテナントとして目立たせるのではなく、土産売場で箱がパッと積まれたときに、どれだけ視認性として目立てるかを一番のポイントだと思っていましたから、いろんなご提案いただいたデザインの箱を重ねて、横から見てみたらどれが一番目立つだろうって考えたりしました。だから、このストライプに決まってからも、側面のストライプ柄もいろいろ検証しましたよね。

柚山:デザイン的な観点でいえば、ストライプの量というのを気にしていて。これは店舗を開発するときにも、どこまでストライプというものを表に出していくのかというのは、常に天野と僕との中でも議論の対象にはなっていたんですよ。あんまりストライプというのを強く出しすぎると、下品とまでは言わないんですが、やっぱりちょっとキャラクターが変わってきてしまうというのがあって。上品な使い方というのはどのラインなのか、目立たなきゃいけないんだけれども、あまり派手すぎず。それでもやっぱり控えめにならないようにという量は、デザインサイドではかなり検証していた部分かなと思います。

天野:皆さん、第一印象はストライプが良かったんですよね。

中澤:営業さんというのは、やっぱり違うなあと思いながらも、結果的にエーデルワイスの皆さんがストライプが良いと言っていたのが、すごく印象的だったんです。見栄えが、すごく鮮やかに見えたんでしょうね。

地引:実は好みだけでいったら、「これ、格好いいな」というような別案があったんですよ。

地引:海外の免税店で売っていてもおかしくないようなデザインの。

柚山:ありましたね。

後藤:「でも、これが積み上げられていて、はたして本当に売れるんだろうか」と考えたときに、最終的な選択肢としてストライプになったんだと思います。

柚山:このストライプが今後どういうふうに使われていくのか。認知度が上がっていくと同時に抑えていくのか、逆にもっと積極的に使っていくのかは、今後次第ですね。いずれにしてもポジティブに変化をしていくことになるとは思いますが。

柚山:ちゃんと「おしゃれだな」と思える範囲での派手さが大切ですね。私もそうですが日本のビジネスマンは、みんな黒やグレー、紺色のスーツだったりと無難な選択をする方が多い。だからお土産を買うときぐらいは「楽し気なものを選ぼう」という意識になるデザインを目指しました。

インタビュアー:パッケージデザインの赤色の選び方が絶妙だと思います。

柚山:やはり、おいしそう、たのしく見える、月並みですがそんなことを考えると赤に行き着く。ところが意外と東京土産のジャンルで赤を使っているものがほとんどなかったんですよ。赤のような強い色を使うってチャレンジな面もあるので、他社があまり挑戦したがらなかったのかもしれませんね。

心が動くロゴデザイン

−GIANDINOのロゴデザインは?

天野:深田さんからいただいたイメージボードの世界観と、ナッツのコロンとした感じが、ちょうど合うんじゃないかと思って書体を選びました。

柚山:ちょっとレトロなんだけど古臭く感じなかったり、イタリアらしくて可愛げがあったりというような、書体や写真をたくさん集めてくれたイメージボードでした。そのイメージに沿った書体を天野とセレクトして、最終的には私がパッケージに落とし込み、ブラッシュアップするというプロセスでしたね。クライアントサイドから受け取ったバトンを持って、私たちのほうでゴールしているという感じですかね。

天野:やっぱり深田さんの強い思いが出ている。最初から最後まで、深田さんのペースに、我々が乗っているような感じではありましたね。

柚山:パッケージ用紙のクラフトっぽさを推していただいたのも深田さんでした。『ナッティーブラウニー』も、クラフトを積極的に使っているんですけど、カジュアルさをうまく表現できていると思います。

天野:ショッパーとかはどうですか?

後藤:紙袋は「おっ」っていう反応が男性からありました。

天野:今回あえてストライプにはしませんでした。

柚山:私のまわりでも紙袋の評価は高いですね。『ナッティーブラウニー』のようにストライプではない商品が増えたことによって、ブランドに奥行きが出たのではないでしょうか。

インタビュアー:おみやげでこのクオリティーに出会えるのは、うれしいと思いますね。

後藤:男性はブラウニー、女性はクッキーを選ぶ傾向。

インタビュアー:お菓子の流行は?

地引:お菓子業界的には、半生系より、クッキー系だよね。

中澤:半生の時代は終わりつつあるのですね。

P.K.G.Tokyoとのパートナーシップ

−『GIANDINO』が始まって、社内の反応はどうですか?

地引:正直いろんな意見があります。ただ、他社でやっているものと同じことをしても、出てくる答えって、期待以上のものにはならないんじゃないかという思いが強かったんですね。

『GIANDINO』をきっかけに、いろんな見方をしてくれる社内の人が増えているんで、それは良かったなと思います。

天野:もしかしたらいい意味で、御社のブランド戦略に変化を与えるかもしれないですね。

柚山:株式会社ジャンディーノとして、独立したもう一つの顔を持つということは、今後良い面も出て来るでしょうね。今までのエーデルワイスブランドに新しい切り口が加わったと、社員の皆さんが思っていただけると、この商品としても生まれた価値があったのかなという気がします。

−発売されて、まだ本当に間もないんですよね?

後藤:まだ40日(取材時)ですね。売場の販売員の方やお客さんからの反応もありますので、これからが楽しみですね。

柚山:「できました、ここで終わりです」なんていうことは絶対にないので、いい意味で変化していかなきゃいけない。チャンネルを合わすみたいに、自分たちの思惑と違ったベクトルをちょっとずつ合わせていくプロセスは、当然発生していくだろうなという気はします。

インタビュアー:そうですね。また、売場は違えどデパートでも、「エーデルワイスのこのパッケージが」みたいなお声も聞こえるようになってくるとうれしいですね。今後の展望についてお聞かせください。

地引:3年後にはそれなりの売上げを目指しています。

天野:そのためには何が必要か。私たちに何ができるか。次のアクションを起こさないといけませんね。

地引:やっぱりその辺は、来期からアクションを起こさないといけないですよね。もしかしたら高価格帯が必要なのかもしれませんしね。手土産というよりも、贈答品価格として3,000円、5,000円価格ですね。

柚山:企画段階から入って、いろいろチャレンジしてみたいですね。今後もし新商品を開発するタイミングがあれば、もっと本能的に買いたくなるような、商品自体の見た目を開発できたら面白いなと思います。それを踏まえた上で、パッケージ開発というタイミングがあれば面白いですね。

インタビュアー:あと売場の確保という面では、大変だったりはするんですか? 新商品を、お土産の所に置くというのは。

後藤:もう激戦で、すごく大変ですね。1つの場所に本当に10社ぐらいが競合するんで、そう簡単には取れないですよね。味がおいしいかはもちろん、パッケージも含めた見た目が本当に大事ですよね。

天野:売り場は羽田空港から始まって、先日は東京駅の京葉ストリート、東京スカイツリーのソラマチ、品川と続きます。

天野:エーデルワイスさんにお声かけいただいて、デザインの手前から一緒に取り組ませていただいた。本当にいいプロジェクトでした。

地引:まだ生まれたてで今後は、出店の仕方だったり、常設店だったり、微妙に方向性が変わってくることもあると思う。もしかしたら大人っぽくなるかもしれないし、逆もあるかもしれない。売上、お客様の声、出店している運営管理側の方のご意見だったりを、どう進化させられるか。もう立ち上げたからにはがんばらないと。

天野:東京土産からはじまっているが、ジャンドゥーヤというカテゴリーを広げていくということもあるかもしれない。生まれてしまったものが育っていくように、ぼくらがサポートできればうれしいです。

−ありがとうございました。

INTERVIEW

東京土産ブランドをつくりたい。「GIANDINO」前編

2018.01.20

株式会社エーデルワイスが新たに立ち上げた
東京土産ブランド『GIANDINO』。
そのパッケージデザインを手がけたP.K.G.Tokyoが
立ち上げの経緯からネーミング開発までをクライアントと語り合う。

GIANDINO 【後編】はこちら >

株式会社エーデルワイス
執行役員 商品本部 副本部長
地引 浩司氏

株式会社エーデルワイス
営業本部 新規開発室 課長
後藤 久輝氏

P.K.G.Tokyo
天野 和俊
柚山 哲平
中澤 亜衣

インタビュアー
神野 芳郎

老舗洋菓子店が東京土産に挑む

—ジャンディーノ(GIANDINO)ブランド立ち上げの背景についてお聞かせください。

地引:エーデルワイスは、百貨店を中心に洋菓子のブランドを展開していますが、ここ10年を振り返ると、百貨店業界の再編や地方郊外店の閉鎖など、私どもの売り場となる場所が減少する一方でした。
さらに最近では、サービス業における人手不足や物流コストの高騰など、経費も上がり続けています。目まぐるしく変化する今、これまで通りのビジネスモデルでは通用しないという課題を感じていました。

モノを作れば売れた時代と比べて今は、お客様が選ぶ選択肢が多様化していると考えています。そういった様々な背景があるなか、私たちエーデルワイスは昨年、創業50周年を迎え、新しいビジネスモデルを創出することにしました。

柚山:売り場が縮小傾向にあるという課題を抱えていたわけですね。そこで新しい活路を模索し始めたわけですか?

地引:はい。そういう中で「じゃ、何をするの?」というと、海外展開やOEM生産ということを選ぶメーカーも多い中で、私たちは“製造と販売”の両面を持つ会社としての強みを生かすことを考えました。

そこでエーデルワイスがまだチャレンジしていなかったのが“お土産市場”です。市場調査をしてみたところ、まだまだ伸びしろがあると判断しました。

後発参入ではあるものの、やっぱり自分たちが得意としている「モノを作って販売する」ことで、お土産市場において「世の中に新しい提案ができるのではないか」という結論に至りました。それがブランド立ち上げのスタートです。

天野:いつ頃から事業については検討されていたのですか?

地引:2016年の春からですね。

最初の1年は空港や駅の土産に関する市場調査と、土産専門のメーカーさんのヒアリング調査をしました。そこで見えてきたのは「モノを作って売る」という私たちの考え方と、土産市場の考え方では「ちょっと違うな」という感覚を持ちました。

—百貨店と土産市場での違いとは、どのようなことでしょうか?

地引:最近は気軽にご利用いただけるようになってきましたが、百貨店で販売している店舗の商品は、お遣い物や贈答品が基本です。

柚山:私たちもデザインを進める中で、百貨店市場と土産市場の客層の違いが一番大きかったように思います。百貨店に買い物に来る方と比べて、お土産は、出張帰りの男性だったりもするので、ターゲットとして大きく違う部分を感じていました。

天野:百貨店なら生菓子も多いですから、扱うものの違いも大きかったですよね。

地引:そうです。生菓子と違って、お土産は日持ちする商品ですから。

柚山:技術的な課題はありましたか?

地引:いい意味で、これまで培ってきた製造販売業の経験を生かすことができました。お土産商品の特徴である“日持ちをさせる”という制約があることで「どんなお菓子ができるんだろう」と考え、私たちも自然と“エーデルワイスらしさを生かそう”という視点が持てたように思います。

本物のチョコレートへのこだわり

—今回、東京土産に特化した背景とは?

地引:さまざなブランドを展開していますが、全国で認知されているアンテノール(ANTENOR)でさえ、神戸発祥という印象をもたれている方は少ないようです。そういった背景と、海外からの外国人旅行者や2020年の東京オリンピック等、さまざまなことを考えると、お土産市場の激戦である「東京発」にこだわりたかった。

天野:そこで新たに東京を拠点とする株式会社ジャンディーノを立ち上げた。

地引:そうです。やっぱり東京土産なのに、製造元が東京ではなかったらお客様はガッカリされると思うんです。だから、私たち株式会社エーデルワイスは神戸に本社がありますが、長年に渡り東京に支社を置いて活動してきましたので、東京土産を取り扱う株式会社ジャンディーノを立ち上げることに違和感がありませんでした。東京土産の製造者はやっぱり東京の会社がいいですよね。少しでもお客様に喜んでほしいですから。

—『GIANDINO』の商品開発についてお聞かせください。

地引:最初は流行のクッキー、キャラメル、チーズといったキーワードも出てきましたが、それをもとにお菓子を組み立てても、すでにどこかで売られているような商品になってしまいます。それではヒット作は生まれません。やっぱり人気のある東京土産には独自の顔つきがあります。そこで私たちは、誰もが好きなチョコレートに着目し、素材としてジャンドゥーヤを使うことにしました。

地引:いわゆる流通菓子として売られているチョコレートというのは、エーデルワイスが使っているチョコレートと全く別物です。私たちがチョコレートと呼ぶものは、チョコレート規格に適しているものじゃないといけません。他社のお土産商品の中には、私たちにとって“チョコレートとは呼べないもの”も多いわけです。

−まだまだ世の中の土産商品の中には、似て非なるものが多いんですね。エーデルワイスが“ジャンドゥーヤ”を選ばれたというのはどうしてですか?

地引:「いろんなチョコレート菓子があるなかで、何か特徴を出そうと思ったら何だろう」と考える中で、「ジャンドゥーヤっておいしいのに、あんまり知られていないよね」という話がキッカケでした。
きっとジャンドゥーヤって、名称を知らないだけで「このチョコレートとヘーゼルナッツの組み合わせの味って、何か記憶にある味だよね」と懐かしい気持ちが湧き上がる素材だと思います。

柚山:この案件に携わるまでジャンドゥーヤという言葉に馴染みがなかったですね。

地引:ジャンドゥーヤという素材の、強みであり弱みでもあるわけです。だからパッケージデザインがとても重要だと考えていました。

−懐かしさのある味わいって、お土産と相性が良さそうですね。この商品のこだわりポイントは?

地引:一流のチョコレートであるクーベルチュールを使いました。クーベルチュールは、カカオだけを使い、油脂分もカカオバターだけで、余計な代用油脂が入っていません。ヨーロッパではクーベルチュール以外のものをチョコレートとは呼ばないくらいです。
あと中身に柔らかいジャンドゥーヤのクリームを入れているんですが、きれいな形状を保つことに苦心しました。

柚山:それは個包装とか、箱の形状にも影響する部分でしたね。中身の商品に対して、箱がちょっと大きめなんですよね。結果的にはストライプを引き立たせる紙面として有効活用される訳ですが。

地引:私たちが普段から展開しているブランドのように、専門店での材料の使い方をベースにして開発しているので、本物志向のお客様にも愉しんでいただけるチョコレート菓子になっていると思います。

−P.K.G.Tokyoにパッケージデザインを依頼された経緯についてお聞かせください。

地引:クッキータイプの商品については、クッキーにクリームを入れて、クーベルチュールでコーティングするという基本的な素案がある程度固まった程度で、初期段階にお声かけさせていただきました。

柚山:まだクッキーの形状も決まっていませんでしたし、ブラウニータイプはまだ企画にも上がっていないときでしたよね。上にヘーゼツナッツも載せるかどうか分からない頃だったと思います。

地引:実はP.K.G.Tokyoにお声掛けさせていただく前に、商品開発担当の深田と私で4社ほどデザイン会社を訪ねました。どのデザイン会社も意欲的に受け入れてくださったんですが、P.K.G.Tokyoのwebサイトを見て気になったんです。そこで深田と「ちょっと行ってみる?」という話になって。

天野:日本パッケージデザイン協会のwebサイトを通じて見つけていただいて、ご連絡をいただいたんですよね。

「私たちはデザインだけを提供するのではなく、その手前の企画からやりますよ」ということをお話しして。「市場戦略やネーミングの部分から一緒に作ってみましょう」という姿勢でお話をさせていただいていたと思うんですよね。

地引:そこが一番大きかったんだと思います。やっぱり皆さんのそれぞれの過去の作品をたくさん拝見して、新しくチャレンジするエーデルワイスに相応しいのではと思いました。ほかのデザイン会社さんで感じていたのは「押しが強くて、もしデザインが変な方向にいったら、軌道修正してくれるだろうか…」ということでした。

柚山:私たちの性格と地引さんの馬が合ったんですね。(笑)

単純に良いものを作りたいという姿勢はもちろんですが、クライアントとパッケージデザインを通じてブランディングという観点から良いものを作りたいと思っています。「お互いがそれぞれの分野で役割を果たしながら、パートナーとしてサポートし合えたらいいですよね」という話もありましたね。

天野:このプロジェクトも最初のオーダーに留まらず、ブラウニータイプの商品などいろんな新しい展開を見せ始めています。こんなふうにプロジェクトが自然と発展しているということは、エーデルワイスさんとP.K.G.Tokyoで良い仕事ができている証だと思いますね。

P.K.G.Tokyoのデザイン開発とは

−実際にプロジェクトはどのように進んでいったのですか?

天野:最初はワークショップから始めました。

柚山:イギリスでブランディングを学んできた中澤のブランド戦略と、天野や私が培ってきたデザイン経験を融合しつつ、根本的な企画部分から入り込んでのブランディングをスタートしました。

中澤:最初はヒアリングに行かせてもらったんでしたよね。その次は、ネーミングを持ち寄ったんです。

柚山:まず、ヒアリングの段階で、ワークショップシートを埋めていく作業があって。誰が、何を求めて、どんな商品をというのを、一つずつ埋めていくんですよ。ペルソナを設定して、その人がどういうモチベーションで、どう買っていくのかというのを設定する。

デザインを決定する前段階の話として、ちゃんと認識を共有しましょうという思いがあって。中澤のワークショップでは、まずはそれを設定していったという背景がありますね。

デザイン会社によっては、クライアントに「どういうのをお好みですか?」というすり寄り方をする会社もありますけど、それでは売れるデザインにはならない。

中澤:すごくペルソナは明快でしたよね。ペルソナは「これはエーデルワイスのTさんだ!」って。なんかちょっとミーハー感のある人っていう。(笑)

柚山:ワイワイ言いながら、フランクにやらせていただき、とても和気あいあいとした雰囲気でしたね。そんなワークショップがあったからこそ、目標が共有でき、その後スムーズにデザインに入ることができました。

−ワークショップをしてみていかがでしたか?

地引:さまざまな仮説を提案いただいて、たくさんの方向性を検討することができました。それまで自分たちが企画してきたものを、客観的な視点で見つめ直す良い機会になりました。さらに商品開発を力強く進められるようになったと思います。

柚山:購入のタイミングやプロセス。誰と食べるのか。会社で食べるのか、家族で食べるのかなど、あらゆる想定を地引さんや後藤さんも交えて議論をしましたよね。その結果、仮説のストーリーを一度立てた。そのストーリーに沿って、今度はネーミングをしていきました。

本当にいろんなネーミングを作って、その中で選ばれたのが『GIANDINO』だった。エーデルワイスの深田さんと荒井さんが考えたネーミングでしたよね?

地引:いろいろなネーミングがある中で、投票してみたら何だかんだ『GIANDINO』という言葉に票が集まるんですよね。「ジャンドゥーヤというのも分かるし、可愛らしさのある響きだったりするなぁ」と。私たちも不安がありながら、仮説として『GIANDINO』に至ったところがあります。

天野:デザインの依頼から2カ月が立った頃でしたね。

後藤:ネーミングが決まるまで早かったですよね。

天野:「ジャンドゥーヤで東京土産をやりたい」ということで商品の試作品を見て、「いったいこれをどうデザインに落とし込んでいこうか」という段階だったので、私たちも『GIANDINO』への理解を深めるために手掛かりが欲しかった。そこでワークショップからさまざまな手掛かりを見つけることができました。

きっとエーデルワイスさんにとっても、再確認できたんじゃないかなと思います。「いろいろな案があるけど、やっぱりこれだよね」という選択肢を検討してもらった上での結果でした。

中澤:イタリアでしたよね、最初の始まりは。イタリアの伊達男みたいなイメージがあるなぁって。

地引:ジャンドゥーヤがイタリア発祥のチョコレートの素材なんですよね。あとは東京のお土産だけど、ザ・東京という素材って実はないんですよね。

柚山:そうなんですよ。この案件に入る前に市場調査をしたんですけど、東京土産と言いながら、東京的な要素がなかったり。

−P.K.G.Tokyoでも調査をされたんですね。

柚山:地引さんたちにお伝えしたかどうかわかりませんが、私たちも独自に調査しています。オリエンテーションを受けた後に、天野・中澤・私の3人で現場に行って、実際に売場だったり客層だったり、どういう人が買っていくのかをリサーチしています。その人たちの服装や売場の雰囲気を把握するために実際に足を運び、「この商品は、こういう客層」であるとか、ライバル商品の販売価格と入り個数であるとか、細かいところでは他社の販売員のユニフォームまで、GIANDINOを取り巻く環境を一覧できるように、一度すべての情報をマップ化して共有させていただきました。

P.K.G.Tokyoとしては、デザインに至る前の部分で、ちゃんとコンセンサスを取って、ブレないものにしたいというのはありますね。

−『GIANDINO』というネーミングの意図は?

地引:最初は「21時のジャンドゥーヤ」など、奇抜なネーミング案もありましたよね。

柚山: 結果的にはGIANDINOという名前に落ち着くことになるのですが、かなり紆余曲折して決まりました。決定した理由も複合的なもので、それはジャンドゥーヤという言葉を想起させるような音であったり、丸っこい字面のかわいさであったり。あと「○○ーノ」という人名みたいな表現を目指してもいましたね。そうすることで陽気なイタリア人というキャラクター性を持たせたり、明るさや可愛らしさを表現できたらと。

−ありがとうございます。次回はデザインについてお聞きします。

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